GRAFFLEX個展 『GREATFUL:EX』– Artist Interview

2026年6月30日



Introduction|

「ある日の帰り道、ふと懐かしいアカシアの香りが通り過ぎた。その香りは、しばし時をさかのぼり、幼少期の風景を呼び起こす。学校の前の丘を駆け回った日々、花びらを口に含んだときの甘い香りと味、そして長いあいだ忘れていた記憶の断片」

小さな感覚は、ときに過去と現在を結びつける。作家にとって、制作もまたそのような連なりの過程である。

幼少期、作家は玩具を愛する少年だった。毎日手にするわずかなお小遣いで組み立て式の玩具を買い集め、友人たちの華やかな玩具に憧れながらも、自分だけの世界を築いていった。ロボットアニメの主人公ではなく、ロボットを設計し世界を動かす「博士」に憧れていた少年は、やがて現実のなかでさまざまな役割と向き合うことになる。しかし、何かを想像し、生み出そうとする根源的な姿勢だけは失うことがなかった。

作品はいつもシンプルなドローイングから始まる。画面上に置かれた図形は互いに出会い、ときに衝突しながら、予想もしなかった均衡を生み出していく。ある形はキャラクターとなり、ある形は事物となり、ときにはひとつの状況や感情を暗示する。明確な答えよりも、理解と誤解のあいだに生まれる余白。そのあいだから立ち上がるコミュニケーションの可能性こそが、作家の制作を支える重要な原動力となっている。

こうした考え方は、作家の制作プロセスにも表れている。
ゲーム会社に勤務していた時代、限られた環境のなかで自身の創作を続けるために選んだグラフィックツールは、
現在もすべての作品の出発点となっている。幾度となく修正を重ね、均衡を探りながら完成したグラフィックイメージは、キャンバスの上でさらに別の物質的な工程を経る。
黒く塗られた画面の上に緻密なマスキングとカラーレイヤーが積み重なり、反復される手作業と仕上げの工程を通して、グラフィックは物質としての存在感を獲得していく。遠くから見れば完璧な印刷物のように見えるが、
近づくにつれて、手の痕跡と時間の積層が生み出した奥行きが姿を現す。

作家が自身を指す名前である「GRAFFLEX」にも、そのような姿勢が込められている。
Graphic、Graffiti、そしてFlex。
その結合によって生まれた名は、デジタルとアナログ、設計と直感、イメージと物質性のあいだを自由に往来しながら、自身の言語を築き上げてきた時間の記録でもある。

《GREATFUL:EX》は、その記録への感謝であり、同時に新たな拡張(Extension)の宣言でもある。
幼少期の記憶、玩具やロボットへの憧れ、グラフィックデザイナーとして培った経験、そして数え切れない試行錯誤。そのすべてが幾重にも積み重なり、現在の制作を形づくっている。
本展は、作家が歩んできた時間と経験への感謝を込めると同時に、見慣れた形や記憶が新たな可能性へとひらかれていく瞬間を提示するものである。
観客は作品のなかに現れる図形を通して、それぞれの記憶を見出すことができるだろう。
ある人にはキャラクターとして、ある人には事物として、また別の誰かには言葉にならない感情のかたちとして映るかもしれない。そして、その多様な解釈が交差する地点で、作家が長年探求してきたコミュニケーションの可能性と向き合うことになる。

記憶は消え去らない。ただ形を変えて残り続けているだけである。
《GREATFUL:EX》は、その記憶と感謝、そして新たな拡張へと向かう旅路である。